Justice

-3-








その翌日、乱雑な前線司令部のテントの中には黒曜の髪の青年とあの部下が相対していた。
彼は将軍が言付けていった通りにその青年に伝える。
「…大掃除?」
青年はそう繰り返すと、少し小首を傾げる。その様に彼は顔を蒸気させ、応える声も裏返ってしまった。
「はっ…!はいぃっ、そうでありますっ!」
「ふ〜ん、大掃除ねぇ。」
しみじみとまた繰り返すと腕を組み、部屋の中を見渡した。



確か以前来た時はもっと汚かったような…気がするけどな。


そして自分の前ですっかり固まってしまっている部下を見て納得する。
そう、彼は一人、青年が訪れるまでに出来るだけ片付けようとしたのだ。
当然、自分の職務をこなしながらである。
片付かなかったのは青年が出現するのが予想より早かった為だろう。
「そういうことか。」
青年は色んな納得をこの一言に込めた。
彼はウォレスの言った言葉を言葉どおりに受け取っていたのだ。
だから彼は今、死にそうな顔で自分の前に立っている。
青年だって己が世の人々からどう呼ばれているかは知っている。
本来の自分とかけ離れた英雄としての自分が一人歩きしていることもよく理解しているつもりだ。
いちいち訂正するのもます不可能な事だし、特に今のところ害もないので放っておいたのだが…ここまでとは。
だが、ウォレスが言った「大掃除」は全く別の意味なのだ。
まわりくどい事を…とにがにがしく思いながらも、その気の毒な部下に心から労いの言葉をかける。
「ご苦労様。おっさんがとんでもない事をいうから大変だったね。」
青年にかかっては将軍もおっさん呼ばわりなのだ。
「いえ!それよりも申し訳ありません!」
予想もしていなかった言葉に部下は失神寸前の頭をなんとか奮い起こし、深々と頭を下げた。



逆効果だったか…?


青年はそんな部下の心情を察して、これは早々に言葉の種明かしをすることにした。
「あのね。おっさんがまわりくどい言い方をしたから誤解が生じたかもしれないね。」
「はっ?」
彼は下げた頭をのろのろと上げながら素っ頓狂な声で応えた。
そんな彼に本当に申し訳なさそうに青年はさらに種明かしを続けた。
「おっさんのいう大掃除とは…司令部への襲撃に備えろってことだと思うよ。」
「しゅ……しゅう〜げきぃ〜!!」
突然の絶叫に青年は慌てて彼の口を塞ぐ。
「しぃーーーー! それは俺から説明するから今はとり急ぎ皆をここに集めてくれるかな?」
そう完結に述べると塞いだ口をそっと解放する。
「りょ…了解でありますっ!」
彼は元気よくそう応えると、脱兎のごとくテントを飛び出していった。
やれやれ…と青年は思いながら、手近な椅子にどっさりと腰をかける。
これから説明するという行為自体に少し狼狽を覚えながら、先陣にいるであろう彼のことを思いつつ静かに目を伏せた。


そしてその夜、兵士達にこと細かく指示を出し終えた青年は司令部を後にした。
もちろん、例の部下は止めたが、彼は悲しげに微笑むと、
「俺が行かなきゃ駄目なんだ…俺がね。」
そう、ぽつりと言葉残して、二つの親書を携えて青年は森の中を疾走していくのだった。






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