| ワタシ ガ ヨンダラ スグ ニ モドッテ オイデ キミ ハ イツモ アテ ナク ダイチ ヲ サマヨウ カラ ツケテ アゲヨウ チイサナ ソノ セ ニ カナラズ ワタシ ノ モト へ モドレル ヨウ ニ ソウ キカイジカケ ノ ツバサ ヲ -君に- The mechanical wing −−−−−薄暗いトンネルの中。 そこにはらしからぬ少し高い声が二つ、およそ彩りというものを忘れたコンクリートの壁 を叩きつけていた。 「それにしてもだ…。」 「本当にそれにしても…だよね、兄さん。」 声の主、黄金色の髪をした小柄な少年と物騒な鎧が背中合わせで僅かに照らされた光の中 に立っていた。 第一、どうしてこんな少年がこのような薄暗く不衛生な…そこを人は下水道と呼ぶのだが そんなところに居るのか…。 さらに不可解なのは、少年のその出で立ちはちょっと近所に散歩にでも出かけましたとい うほどに軽装であった。 まさか、散歩に出て下水道に迷い込む年齢でもあるまい。 かといって子供達が大人たちに秘密にして遊ぶ遊び場には…さすがにここは向いていると はいえないだろう。 「あん?」 それでも随分と運動をしたのであろうか、少し火照った顔をした「兄さん」と呼ばれた少 年は鎧から発せられた声に無愛想にこう返事をした。 「兄さん」…というからには小さくてもこの少年が鎧の兄ということになる。 となると、鎧は必然的に弟という事になるのだが…。 「不法侵入の挙句、管理システムを壊し水門を壊し…。」 と、明らかに兄をお説教する口調でネチっと語り始めた。 「ちょっと待て、アル。」 兄である少年は、うんざりと天を見上げて大きく一つ溜息をつく。 確かに彼がうんざりとしたくなるのも解らない訳ではない。 彼らの周りには、ガタイの良い男達がそれぞれに物騒な武器を持って少年達を取り囲んで いたからである。 しかし、少年が続いて吐き出した言葉は今のこの状況を考えると想像を絶するものであった。 「水門の管理の機械を壊したのはオレじゃなくて、テロリストだろ!?」 まるで、これでは兄弟喧嘩のようでそこにはおよそ武器を持った男達に囲まれているとい う緊張感や恐怖感というものから縁のないものであった。 「それを再錬成して大砲に造りかえたのも充分壊した内に入ると思うけど…。」 「だってアレをそっくりそのまま再錬成するのは不可能だったし、かといってあのまま水 門を開いておく訳にはいかなかったし…。」 だったら有効に使うべきだろ?…と、表情の豊かな少年は固く握った右の拳を横へ突き出 した。 すると、先頭をきって襲いかけてきた大男が、げふっっと反吐を吐いて濁った水の中へと 堕ちて行く。 「でもね、さっきも言ったけど、兄さんは後先を考えなさ過ぎだよ! まかり間違って水門自体を壊滅させてたらどうする気だったの?」 アルと呼ばれた弟はどうみても襲いやすい小柄な兄の方へと明かりに吸い寄せられる蛾のよ うに群がろうとしている一群を無作為に掴んでは、遥か彼方へと放り投げて行った。 「いいじゃん、結局ちゃんと水門は全部降りたんだから。」 と、結果オーライ!という掛け声と共に少年は胸のところで、パチンと手を合わせた。 そしてそれが地面に触れたと同時に、周囲に居た男達が纏めて軽々と吹き飛んで行く。 「後で怒られても知らないから! 兄さんだけで怒られてよね!」 「げっ、マジかよ、それ!」 それはまるで悪戯が見つかった悪ガキ達の会話。 しかし、その間にほぼ事は片付いてしまっていた。 「と! もう終わりかよ。」 実はこれまでの行程を考慮に入れるならば、「もう」という言葉は非常に不適切ではある。 まあ、それは、常識というレベルにおいての寸法であるからして、彼らに通用するかどう かは甚だ疑わしい。 が、その時、 キュイーーン、 という音と火花が足元で炸裂した。 その耳慣れた音に、 「見て! 兄さん! あそこ!」 と、アルが示す先には、鉄骨で作った高台の上で銃を構えた男…テロリスト達が狂ったよ うに彼らへ向けて発砲を繰り返している。 その虚しく足元で響く音を聴きながら、少年はここにはいない…ある人の銃の腕前に最大 の賞賛を贈っていた。 「ああ、弾、勿体ねぇ…。 やっぱ、中尉ってすげぇんだなぁ〜。」 「兄さん、ボク後ろに隠れて! 当たると兆弾しちゃうから!」 そう言って、アルは兄の前方へ自ら進み出た。 確かに稀に届く銃弾がアルの固い鎧に当たり、カツンカツンと火花とともに四方へ散って いっている。 「兄さん、どうする? ボクが行って来ようか?」 まるでおつかいにでも出かけようかという感じの言い回しである。 「いや、アルフォンス。」 その時、後ろに隠れていた兄はすぐ近くに積み上げられいた鉄骨の山に目が留まっていた。 そして、そのまま素早くそれに駆け寄っていく。 「に、にに兄さん!?」 「黙っとけよ、ア〜ルぅ〜?」 アルフォンスが止める間もなく、パンと合わせた兄の両手が鉄骨の山に触れる。 すると、バチリと閃光が走った。 やがてその光が消えると、そこにはそれはそれは見事な大砲が鎮座していたのである。 アルフォンスはその展開に大きく溜息をつくかわりに滑らかとはいえない音を立てて首を 振った。 「ああ〜もう…(全然聞いてないんだから)。 トンネルは壊さないでよ、兄さん。」 「まっかせなさ〜い♪」 晴れて弟から許可の出た兄は、意気揚々と大砲に座ると凄いスピードで狙いを定め連射し ていく。 遥か上方で上がる火花と爆音と嬉々として撃ちまくる兄を交互に見やったアルフォンスは 間違ってトンネルの天井に被弾させた場合に備えていつでも先に続く通路へ退避出来る様 に場所を移動したのだった。 しかし、幸いにも、静寂が戻る頃、トンネルには傷一つついてはおらず、ふわりと降り立っ た兄は大きくガッツポーズを決める。 「よっしゃッ! これで終わりだな♪」 見事なまでに綺麗にテロリストだけを撃ち落とした彼は、休むまもなく先へ続く唯一の道 へと足を進めた。 そこは何かの特別な部屋に続くのか、僅かにだが手前に階段が設けられている。 「ねぇ、兄さん。 やっぱり、大佐に連絡した方がいいんじゃない?」 アルフォンスはその先に何か不安を感じたのか、大きな身体を僅かに縮こませて恐る恐る 兄に伺いを立ててみた。 しかし、 「ばぁ〜か。 そんなことしてる間にとっと逃げられちまうだろ?」 と、呆れたように笑う…、本当に予想通りの言葉を返してくれた兄にアルフォンスはがっ くりと肩を落とした。 もう、この下水道に侵入してからどれくらいの時間が経ったのだろうか。 アルフォンスには肉体がない為、臭いは感じられないが異様な湿気による金属の腐食は否 めない。 不快さを感じる訳ではないが、後の手入れの事を考えると自然と気持ちがげんなりとして くるのであった。 すると、それを見越したように兄はとびきりの笑顔で弟に向き直る。 「アル。入口でも言ったけどよ。後でちゃんとオレがぴかぴかに磨いてやっから、あと ちょっと我慢してくれよ、な?」 それに…。 「大佐にここで恩を売っとくのも悪くないしな…。」 この先の奥の方から感じるそれに、兄はにんまりと嫌な笑みを浮かべていた。 そう。今感じる人の気配。 それはこのイーストシティにある東方司令部にあった軍の車が爆破された時から追い続け ていた男のもの。 でも、何故、子供の彼らがそれを追わねばならなかったのか? それは、兄…。エドワード・エルリックが軍属である国家錬金術師であるからであった。 僅か12歳で錬金術師の中でも超難関だと言われている国家錬金術師の資格を取得。 一見はどこにでもいる普通の少年でありながら、右腕と左足が機械鎧というその出で立ち から、二つ名を『鋼』と名づけられた、軍の狗である。 このような小さな少年が大人でさえその苦痛で狂いそうになるという機械鎧をつける羽目 になった理由。 そう、対外的には東の内乱に巻き込まれたという事になっている。 だが、それに隠された真実を知るのは軍でもほんの一握りの人間だけであった。 そして、それは弟、アルフォンス・エルリックの肉体がない理由に繋がるのである。 話を元に戻そう。 そう、軍の狗だからといって上司の命令でもない限り、一国家錬金術師がここまで追う必 要性は本来はないのである。 無視しておく訳にもいかないのだが、ある程度追跡した後、然るべきところへ通報すれば 良いだけであって…、ここまで追い続けたのはもうエドワードの好奇心としか言い様がな かった。 もちろん、上官であり軍での彼の庇護者である大佐に恩を売っておくというのはエドの心 の底からの本心であるのだが…。 「さあ、アル。 さっさと行こうぜ!」 そうして、二人はぽっかりと口を開けて待つ、闇の中へと消えていったのであった。 ----- ----- 「ほう、ネズミがいるとは聞いたが、まさか本当にガキだったとはな…。」 ずっと追い続けた男は、たった一人で部屋の中央に佇んでいた。 「兄さん、あの人…。」 アルフォンスが指した先には、銃の型をした男の左腕があったのであった。 「おっ、機械鎧仲間♪」 アルフォンスの警戒心たっぷりの声とは裏腹に、エドワードは親しみのこもった軽い口調 でそれに続けていく。 しかし、相手はそれに合わせる事はしない。固い口調のまま先を続けた。 「ただのネズミではないようだが…、それもここまでだ!」 どうやらこの男、エドワードの外見だけでは騙されなかったようである。 エドワードもエドワードで、だからといって身構える訳でもなく人の良い笑みを浮かべた まま穏やかにだが、直球で男に挑んだ。 「アンタが軍の車、爆破したんだろ?」 内容は兎も角として、声も子供らしい明るさがある。 が、目が笑っていない。 目的は?…と鋭い視線が相手を詰問していた。 「お前らに関係ない!」 「ねぇ、おじさん。大人しく捕まってくれたらお互い、痛い思いをせずに済むんですけど…。」 ダメ?…とアルフォンスは愛らしく訴えては見るものの、恐らく当の男より、端から交渉 なぞするつもりはない兄から大きな苦情がくるだろう。 そして、幸いにもアルフォンスの一言が相手の神経を大いに逆撫でしたようであって…。 「ガキがッッ! なめるなよッッ!!」 覚悟しやがれ!…と、男は息巻いて武器となる機械鎧を構えたのであった。 どうやら、弟は暗に兄に手を貸してしまっただけのようである。 「あ〜ら、残念。交渉…け・つ・れ・つ・♪」 言葉が終わると同時にエドはパンと両手を合わせ、翳した先から剣を錬成する。 「アルッ、捕まえるぞ!」 それが合図となったのか、男の身体がその大きさからは少し想像が出来ない程素早く動き しっかりと二人を射程に収めた。 アルフォンスは本来感じる事のない軽い頭痛を心のどこかで感じながら、それでも男に負 けない速さでふぅ…と射程外へと移動する。 彼の場合、別に銃弾が当たってもいいのだが、兆弾して兄を傷つける恐れがあるからとい う配慮であった。 しかし、男は正直その動きに驚きを隠せなかった。 あれだけ大きな鎧である。 重さだけでも相当あると素人でも推測出来るのに、彼の動きはまるで重さを感じさせないほ どの素早さがあった。 どうみても、先ほどの子供の甘え声としか思えない口調とは合点がいかない。 そうした隙にエドワードは素早く間合いを詰め、男の懐に入ると錬成した剣を消し、自ら の鋼の右手を男の腹にぶち込んだ。 「ぐはっっ!!」 それでもふいを突かれた攻撃は相当だったのか、男の巨体が大きく吹き飛ぶ。 そして、手ごたえアリと見たのか、様子を見る為なのか、エドワードもアルフォンスも次 の攻撃をすぐには繰り出さず、遠巻きに構えているだけに留まった。 すると、そう間をおかずして、男はゆっくりと状態を起こしてきた。 その口の端からは赤い筋が幾つも流れ落ちている。 「こ…こんなガキにッッ!!!!!」 「そんな安物の機械鎧なんか使ってるから。」 今度いい技師を紹介してやろうか…と、エドはけらけらと笑った。 アルフォンスはそんな兄の悪ふざけを言葉ではなく視線で注意したのだが、エドワードは 肩を竦めるだけである。 だいたい、犯罪者をいい技師…この場合、彼らの幼馴染でエドワードの機械鎧を作ったウ ィンリィの事を言っているのだが、幾らお金になるとはいっても彼女が喜ぶわけはなかろ うと大きく溜息をつくアルフォンスであった。 しかし、そんな油断が生じるところが、まだ子供なのか…。 「ちきしょう!!! まだまだ…これからよっ!」 男は機械鎧を構え、ピタリとエドワードの額に狙いを定めた。 それに気づいているのか、いないのか…。 「ったく、あきらめが悪いねぇ〜。」 エドワードもアルフォンスも飛び退ることなくその場で身構える。 「この野郎ォォォォォォォッ!!」 男の顔がこれ以上にない程、醜く歪んだ。 突き出された機械鎧の先端から赤い火にぽわ…と灯る。 パチンッ! それは静寂と緊張の隙間を縫って聞こえたとても軽快な音。 大凡、この場には相応しくないほどに…。 しかし…。 「があああああああああああああああああああっっ!!」 悲鳴、爆風、熱風、そして、一面の紅…。 それが兄弟の前方で炸裂したかと思うと、今度は一気にその煽りを喰らう事になった。 「なっ…!!」 エドワードはその非情なまでの激しさに心を動かされ弾かれたように後ろを振り向いた。 だが、先ほどの爆発の煙で視界はゼロに等しく、そこに居る誰かを目で確認する事は出来な いでいる。 そう…、こんな事をするのは彼が知っている中でも唯一人。 そして恐らく彼ら同様、ここに居るべきではない人物。 「手加減はしておいた。 だが、これ以上、抵抗するというのなら次はケシ炭にするが?」 いかがかな?と、僅かにおさまった爆音を消すかのようにクツクツ嗤う声がこの地下に響 き渡った。 「うげぇ…。 この嫌味ったらしい口調は…。」 解ってはいても、絶対、ここで逢わせたくない顔だとエドワードはげんなりと肩を落とす。 やがて、霧のように漂っていた煙が鮮明に晴れてきた。 するとそこには、予想通りの者が威風堂々と佇んでいた。 目が覚めるような青い服。 僅かに残る爆風で煽られる黒い髪と嘲笑に満ちた黒い瞳。 「おや? これは妙な場所で逢うな、鋼の。」 エドワードをこう呼ぶのも唯一人。 「司令部へ直接来るよう命じたはずだが、こんなところで遊んでいたのか。」 これだから子供は仕方がない…と男は首を振る。 貴様はどうよ?と思ったエドワードだが、口で勝てる相手ではないのはよく解っていた。 「どっかの誰かさんがしっかりしてねーから、オレたちのような幼気な子供がこんな事件 に巻き込まれるんだろ。」 だからといって大人しくしている彼でもなく、言葉を変えて反撃を試みる。 「それは心外だね。 私はまた君があまりにも小さいからどこかの穴にでも落ちたのかと思ってわざわざこの 忙しい身で探し歩いたのだよ…。」 感謝されても非難される覚えは無いと暗に男は言ってのけたのだった。 実際、この男が自らそんな事を理由にそこまで動く訳がなく、事件としてちゃんと部下に 調べさせた挙句、まっすぐここまで来たのは明白。 しかし、今、エドワードはそれどころではなかったのであった。 「うがぁーーーーーッッ! 小さい、言うなぁーーーーーーーーッッ!!!」 「に…兄さんッッ!!」 相変わらず、ミニマム的な言葉を使うと処構わず暴れる兄を懸命に弟は宥めたおす。 「ど畜生め…、てめえ何者だっ!?」 すっかり事件の当事者でありながら、軍部漫才のおかげで蚊帳の外にされてしまった不幸 なこの男。 命に別状がないとしても立ち上がれない程に火傷を負わされていたのある。 苦し気な呼吸の合間から吐き出される呪詛のようなそれに、問われた男は軽く視線を向けた。 しかし、首から下はまったくその男に関心は寄せず、いまだ暴れ続けるエドワードを捕ら える為に動いている。 「ロイ・マスタング、階級は『大佐』。 そして、もうひとつ…。」 ロイは男から目を離さず不敵な笑みを浮かべると、今度は逃れようとして暴れるエドワー ドを自らの右腕の中にぐぃッと抱き込んだ。 そうすると丁度、右手の甲を相手に見せつける形になる。 ロイの両手は白い手袋で覆われていた。 そう、軍部の人間は皆、白い手袋を着用することを義務付けられているのだが、この男の 手袋の甲にあたる部分には…。 −−−−−血のように赤い<<練成陣>> 「”焔の錬金術師”だ。 覚えておきたまえ…。」 ちなみにその腕の中に拘束されている少年は”鋼の錬金術師”というのだが、それはわざ わざ教えてやるつもりはないようであった。 後にそれを不思議に思ったアルフォンスは、ハボック少尉たちに聞いてみた。 「んあ? ああ、大佐はもともと目立ちたがりだが…。」 そこで加えたタバコをゆらゆらと揺らしながら言いよどんでしまう少尉に、 「そりゃ、惚気だ! ノ・ロ・ケ! こぉんの、かーあいい豆に手ぇ出したらケシ炭にするぞぉーーっってな♪」 と、ひょんと顔を出したヒューズ中佐のそんな一言に大佐の部下のほとんどが頷いてしまっ た為、アルフォンスも微妙なところで納得せざる負えなくなってしまったのだった。 しかし、そこは本来学び舎で学ぶ年頃の彼である。 「類は友をよぶ…かぁ。 案外、大佐も中佐の事をとやかく言えないんだなぁ。」 と、妙なところで言葉の意味を理解していく、うら若きアルフォンスであったのだった。 -THE END-
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