ここはどこだろう…。

どこを見渡しても、闇しかなくて…。

あまりにもそれが暗いから、焔を灯してみるけれど。

やはりそこには闇しかなくて、もっと灯せば何か見えるだろうかと次々に指を鳴らしてみる。

その内、周りが真紅に塗り換わっているのに気づき、それでも何も見えないことに苛立ち

を覚えた頃、誰かの声が…現在は遠くにあるその声にふと我に返る。







The footstep from the paradise







「…もう、それくらいにして下さい。」

厳しい瞳の中に酷く悲しげな色が浮かんでいた。

若い女性をそのような目に合わせる程失敗する事はほとんどないのだが…と、男は自嘲する。

そう、明日もきっと同じなのだろう。

最前線ではいつもそうだ。

イシュバールに限らず現在も大して変わりない。

ずっと傍についていてくれていた彼女には悪いが、どうやら今夜も眠れそうになかった。

いや、眠っていないのか眠っているのか…その境界さえも怪しい。

不眠不休で仕事をはかしていたあの頃は一体いつの事だったのか。

唯一の友の死でさえも、目指す光を違える事はなかったというのに…。

「無能だね、無能!」

今ならそう勝ち誇ったように言う彼の言葉も甘受出来よう。

だが、その彼は───。

最後に逢ったのは、互いの目的の為に道を分けた瞬間だった。

恐らく生きては帰れないだろう…と、最後と思いその時だけは真面目に別れを言うつもり

だったのに、彼ははにかんだような悪戯っ子のような無邪気な笑みを浮かべ、差し出した

手を軽くパンと叩くと、さっさとその小さな背を向けて走っていってしまったのだった。

その時は彼らしい…と思い苦笑ったものの、いざ終わってみれば…。

「…初めまして、アルフォンス・エルリックです。」

そう丁寧に頭を下げた少年に、彼が目標を達した事を知った。

そして、…彼自身が消滅したことも。

彼が弟の身体を戻すべく再び人体錬成を目指していた事を知ったその時からこうなる日が

来る事は覚悟していたはずであった。

それなのに───。

「悪い…。お前が、───悪い。」

あの別れ際、しっかりと手を握り返してくれていれば諦めもついただろうに…。

いや、違う!

どちらにしろ、諦める事なんて出来はしないのだ。

「僕は信じています。兄さんはどこかで生きている。

 だから、僕は旅に出ます。兄を求めて───。」

そう言って、彼が着ていた赤いマントを手に再び宛てもない旅へと旅立った少年。

どうしてそうも真っ直ぐに信じられるのか、男には理解り固い事であったが…。

しかし、願わくば…。

「お前に…、お前に逢いたい。」

今度こそ、お前の彷徨う手をしっかりと繋ぎとめたい。

そんなことを連々と想っている間に男は久しぶりの深い眠りに落ちていった。

贖罪の時間なぞ与えられず、日々罪だけが積っていく。

そして、無情にも夜明けはおとずれ、また同じ日が過ぎていこうとしていた。

今日は酷く外が荒れている。

北の大地は、視界がほとんど聞かぬほど白に染まっていた。

男はその中でじっと立ちすくんでいた。

相当寒いであろうに、そう…ただじっと立ちすくんでいた。

こんな中では男が得意とする錬金術も役には立たない。

しかし、その白さが気に入らず、無駄だと知りつつパチンと指を弾いてみる。

が、期待は男にとっては良い方に裏切られ、突然焔が立った。

ありえる筈がない…、吹雪く雪の世界に真紅が激しく燃え立ったのだ。

男は一瞬酷く驚いてあとずさったが、ふとその中に見えた影に目を見張る。

「…!」

それは夢であろうか。

その中には、一人の青年が椅子に座り、机らしき上に憮然と肘をついて静かに目を閉じて

いた。

長い黄金の髪をひとつに結い、顎を乗せた手には人工の白さがそれを覆い隠している。

自分の記憶より、随分と大人びた顔になっていたが見間違うはずはなかった。

しかし、気になったのは底知れぬ焦燥感がそこには広がっている。

以前の彼にはほぼ無縁とも言えるもの。

それが酷く気にかかり、幻だと理性の片隅で知りながらも手をのばし精一杯の声で叫んだ。

「エドッ、エドワードッッ!!」

すると、その衝撃で焔が震えたのか、青年の肩がぴくりと動いたように見えた。

「鋼のッッ!」

再び叫ぶと、その青年はゆっくりと顔を挙げ、こちらを見る。

信じられない…と、大きく見開かれた黄金の瞳。

その唇が、その動きが…男にこれは夢でないと実感させた。

「タ…イ……サ?」

しかし、僅かな逢瀬もそこまで…。

青年は誰かに呼ばれたのか弾かれるように反対側へ顔を反らしてしまい、その瞬間、焔も

夢のように消えてしまったのだった。

ただ、男には決して自分の幻想ではなかったという証拠を手にすることが出来た。

それは、発火布で作られた手袋が熱で焦げ、その指先にひりりとした痛みを残している。

「生きているのか…?」

少年が言った事はただの希望ではなく確信だったのだろうか。

男はじっとその夢の跡を見つめていた。

もし、彼がどこかで生きているのであれば自分はここでこんな事をしている場合ではない。

今度こそ、彼の為に進まなければ…!

男の奥底に再び光が灯る。

生きている。

彼は、生きている。

この世界のどこかか…あるいは全く別の世界かは分からないが、そんな事はどうでもいい。

その絶対さえあれば、また動き出す事が出来る。

今は遠く離れて場固めをしてくれているであろう部下達にもこれで面目が立つだろうか。

「信じているよ。お前は必ず生きていると…。」

だから、早く還ってこい…。

そう、ガラにもなく灰色の空に祈ってみる。

「そんなところで死んだようになっているなぞ…らしくないぞ、鋼の。」

しかし…、男は何とも言えぬ得体の知れない不可解さに眉をひそめた。

あの…焔が消える瞬間に映った男は…。

恐らく青年を呼んで二人の逢瀬を妨げた男の影。

「……ヒュー…ズ…か?」

だが、それに応える声はなく、ただ風が唸り狂うばかりであった。






そして、その後暫くしてから争いの足音は一際大きくなってきた。

アルフォンスも、懐かしいリオールの街でその足音を聞く。

それは、トラブル好きの兄が近づいてくる足音であったと…気づく日はまだ遙か未来の

こと。















-THE END-













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2005.07.20+++ amane

「シャンバラを征く者」〜CM妄想編

あくまで、後悔前…じゃなくて公開前のCMや記事を見ての勝手な妄想ですので、
本編とは全く関係がありません!(いや、全部そうなのだが…あえて強調してみる)
だって、あのCM…。
ロイのあの台詞を聞いて、「ぐはっ★」と吐血した人、決して私だけではないはず!?
あんな表情で切なく言われたら(いや、単にからかってるだけかもしれんが)…ねぇ。








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