| その頃、マリアは、ほぅと深く息をついていた。 やっと痛みが消えたのだ。 それに安堵して彼女が顔を上げると、眼前には大切な人をどうすることも出来なかった大 きな大人がひたすら機械に八つ当たりしているところである。 そして隣では、相棒のミラージュがこの煩い男をいつ止めようかとその様子を伺っていた。 「はぁ…。」 マリアは大きく溜息をつく。 こんなところでクラウストロ人同士の喧嘩なんてされた日にゃ…船は内側から崩壊してい くことになる。 とにかく、クラウストロ人の破壊力は洒落にならない。 更に最悪な事に今は精神的に仲介に入れるフェイトがあのザマで使い物になりはしないのだ。 いや、そのフェイト自身がクリフの苛立ちの原因の一つであるのが最悪なのかもしれない。 「仕方が無いわね…。」 マリアはこれもクォークのリーダーとしての勤めだと諦め静かに席をたつと、まっすぐに クリフの方へと歩いていった。 「ちょっと、止めなさい!」 壊す気?と、怒るマリアをクリフは向けようのない怒りの目で睨みつけてくる。 しかし、それを優しく宥めてやるほど、マリアは大人でもないし甘くもない。 「八つ当たりもいい加減にして。」 ぴしゃっとそう言い放つと、彼にだけ聞こえる様に声をおとして先を続けた。 「フェイト、落ち着いたわ。」 だが、それは余計にクリフの精神を苛立たせるだけであって、返す言葉もないまま彼は皮 肉に顔を歪ませるに留まったのだった。 そんなクリフの態度にマリアは呆れたとばかり首を振る。 そして、この妙に自身の事になると無頓着ないい年齢の大人に彼女はこう吐き捨てたのだった。 「そんなに悔しいなら、もっと子供になりなさい!」 大人だからこそ、私情より公務を優先させてしまった。 その結果がこれである。 大人の嫌なところだ。 私情の逃げ場を公務に求める。 「…。」 まるで母親に叱られる子供のようにすっかり黙り込んでしまったこの大男に更にと口を開 きかけたマリアであったが、深く深呼吸することでそれをおもい止めてしまったのだった。 お互いがこんな精神状態で何を言い合ったもで埒があかない。 マリアは思い直して、開いた口からは別の言葉をゆっくりと吐き出した。 「エリクール2号星に着くまでまだ随分と時間があるわ。 それまで休憩でもしてれば?」 ともかく、クリフの苛々と正比例するかのようにミラージュの苛々も限界に達してきている。 ここは皆の僅かな平和の為にもどちらかをどこかへ追いやる方が良い。 それには今適任なのはクリフであろう。 クリフはその提案に渋い顔をしたが、暗に示された事に気がついたのか渋々重い腰を上げ、 「…わーったよ。 部屋にいるから用があったら呼んでくれ。」 と、そう気だるげに告げる、のそのそとブリッジを後にしていったのであった。 あえて、誰の…と言わない辺りがクリフらしいといえばクリフらしい。 そして、残されたマリアとミラージュはお互い顔を合わせると苦笑わずにはいられなかった。 「不器用ね…。」 「マリア、だからこそあの年齢で未だ独身なのです。」 思わず、二人は吹き出してしまう。 そう、これが偽りなどであるはずがない。 今感じるこの全ては…確かに自分達の全てを揺るがしているのだから…。 マリアは微笑う。 この想いの一部でもいい、繋がる少年の心へ届くようにと願いながら…。 -終-
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